75歳 現役編集者の “徒然なる我儘に”

じゃこめてい出版の最年長編集者が手掛けた書籍の紹介と思い出の日々を綴る。人生の編集日記。

「シモキタ」と「下北沢」とシューベルト

  今は、本多劇場など演劇の街として、ライブハウス、古着屋さんなど、昭和の香りが残る独特な若者文化発祥の地としても有る名なシモキタこと下北沢。

  今は全国区の街ですが昭和二十年代、自宅から歩いて15 分ぐらいの街だったということもあり、小学生から中学時代よく遊びにでかけました。そのころも映画館が三館もあって、洋画専門のオデオン座(ネットで検索したらオデヲン座となっていました)日本映画はグリーン座(ここで高峯秀子の『二十四の瞳』などを観ました)。

  そして名前が思い出せないのですが、南口から八幡様へ向かう道から少し入ったところにも一軒あり、そこで『バクダットの盗賊』という映画を見た記憶があります。今はもうそれらの映画館は一軒もないようです。

 お風呂屋が一軒、あとはこまごまとしたお店が迷路のような小路にたちならびアットランダムな形で発展していった街で繁華街は、20分ぐらいで全部回ることができたような気がします。

 古レコード屋さんがあり当時はSP盤の時代、伝説のテノール歌手カルーソの「女心の歌」がはいっている片面だけのレコードを父が買ってとても大切にしてたのを思い出します。

そして相撲好きの父が場所が始まるとテレビをみるために足げく通ったお寿司屋さんがあり、作家の森茉莉さんいきつけの風月堂と言う名の珈琲屋さんもあり、そのアンティークなたたずまいが子供心にもとてもおしゃれな感じがしました。

 確か先祖が荻生徂徠というその名も「荻生書店」という古本屋さんもあったような。

子どもはお呼びでなかったので、記憶もおぼろですが。 

 「どんりゅうさん」とよばれていたお寺もありました。でも最近、そばにすんでいた人からそれはドンリユウさんではなく、道了尊(ドウリョウソン)のことで、自分たちは「ドウリョウさん」とよんでいたと教えてもらいました。箱根足柄山にある烏天狗を祀る大雄山最乗寺の末寺だそうです。

 教えてくれた方は認知症の権威者で脳神経外科の先生です。私の記憶違いであることは間違いないのですが、記憶の中に「呑竜」(どんりゅう)と漢字まではっきり銘記されていて、拭いさることができません。困ったものです。

 

 ♪日本語だから心に届くシューベルト 

  昨年9月27日、その下北沢の一角にあるライブハウス「音倉」で〈じゃこめてい出版presents「日本の秋の歌とシューベルトを歌う」〉という コンサートを開きました。

 テノール歌手の畑儀文さんとビアノ田中悠一郎さんを迎え、「里の秋」や「紅葉」「庭の千草」など秋を歌った名曲の数々と実吉晴夫現代語訳の日本語で歌うシューベルト、「のばら」「子守歌」「菩提樹」などを歌っていただきました。

 

 シューベルトの歌は畑さんが歌う実吉邦詩による「冬の旅」全曲と有名名曲を集めた「ミューズの子」の2枚がCDになって、じゃこめてい出版より発売されています。

ネットでも数曲試聴できます。

 

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  「冬の旅」を日本語で聴くと、歌詞の意味がそのままメロディとともに「失恋の痛みを抱え冬の旅をつづける若者の歌」とわかり、ひとつひとつの歌にこめられた思いが直に心に届き、感動が倍加します。

 「冬の旅」の15曲目「からす」を實吉晴夫邦詩で聴いてみてください。冒頭のピアノによるいかにもシューベルトらしいシンプルで美しく哀切なメロディー。そのピアノ導かれるように日本語の歌がはじまると、その一語一語がぐっと胸に迫るのを感じます。まるで日本の歌曲のように。

 

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「からす」  

 原詩 ウィルヘルム・ミュラー 曲フランツ・シューベルト

邦詩 實吉晴夫

 

カラスが一羽ついて離れない

今日も一日 頭の上

おい 何してる 離れないの

そうか 死んだなら 俺を食うか

 

長くはないさ すぐに餌食だ

カラスよ見せろ まことの愛を

最後に見せろ 変わらぬ愛を

 

 

「冬の旅」からもう一曲。有名な「菩提樹」も聴いてみてください。

 

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 シューベルトの歌を全曲原語で挑戦し何年もかけて歌ったという程シューベルトをこよなく愛する畑さんですが、「原語の壁は厚く、実吉さんの邦詩で歌った時はじめて聴く人の心にじかに届いたという手応えを感じた」そうです。

 その畑さんが歌う実吉邦詩の「冬の旅」をラジオで聴いたと言う方からこんなに素晴らしい日本語のシューベルトの歌を初めて聴いた、是非日本語の楽譜が欲しいとお電話をいだいたのは去年のことです。

 お知り合いの大津康平さんというバリトン歌手の方が實吉邦詩の「冬の旅」に大変興味を示され、いつかリサイタルで歌ってみたいとおっしゃっているとのこと。

 下北沢のライブハウスの畑さんのコンサートにも来てくださり、實吉邦詩で歌うシューベルトも聴いていただきました。

 きっと畑さんとは又違った「冬の旅」を聴かせていただけるのではと、期待を膨らませています。

 

★そしてまた下北沢

 このコンサートの前、ライブハウスの下見を兼ねて久しぶりに下北沢で降りたら駅は改装工事中で、迷路がさらに迷路になって、小田急線は地下にあり、何処をどう出れば何処に出るのかさっぱりかわからなくなっていました。駅には昔の面影はほぼなし。小田急線と井の頭線がクロスするガードがあったので、昔をしのぶ縁(よすが)が少しでも残っていてほっとしましたが。駅にくっつくようにあった戦前からあった何でもあってなんでも安い「駅前食品市場」(と呼ぶということはネットで調べて初めて知ったのですが)はなくなっていました。

ここに中学の同級生がいて、彼女が時々店番をしているのを見かけました。

中学の同級生の何人かは下北沢商店街のお店の子ども達で、靴屋さん、床屋さん、肉屋さんお菓子屋さん……いまでもまざまざと顔が浮かんできます。あの顔、この顔、今もお店は残っているのかな。みんなもう後期高齢者なのだなあ、としばし感慨にふけったのでした。

 駅前の掲示板に、工事中のため期間限定で災害時の避難場所のお知らせの紙が張ってあり、読んでみると私の通っていた中学校が避難所に指定されていました。学区が同じだったということなので当然といえば当然ですが。

 時代は変わっても学校は変わらず、というわけにはいかないでしょうが、懐かしい中学時代にしばし思いを馳せました。