75歳 現役編集者の “徒然なる我儘に”

じゃこめてい出版の最年長編集者が手掛けた書籍の紹介と思い出の日々を綴る。人生の編集日記。

「ケンさん」と「ケンちゃん」

 「この人生においては、よいものはけして失われるものではないのです」

 

草木原語の彩時記—凜と咲く  熊井明子/著

 

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 「この人生においては、よいものはけして失われるものではないのです」

この一節は、「凜と咲く」に「相思相愛の花」として紹介されているポリアンサスの

花のお話しの中に紹介されています。この花はかぐわしい香りで春を告げる鉢植えの

花として人気があり、花の季節は12月〜3月なので、今からこの花の季節となります。

 

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 さりげないことばなのに、なぜかホッとし、そして勇気づけられます。当たり前の

ことばのようでいて、いわれると背を押される気がしはっとするのは「よいものは失

われない」ということばのせいでしょうか。

 「よいもの」とは何でしよう。それが「失われず、ここにあるもの」ということで

あれば、だれにもいっぱいある。わたしにもある。きっと。

生きている限りいっぱいある。

 それが美しいものであったり、楽しいものでもあり、正しいこと、こころよいもの、

うれしいこと…かなしいけど心打たれること、などなど身の回りにきっといくらでもあ

るはずです。そう思えるからほっとするのかもしれません。

 

『シェルシーカーズ』(原作/ロザムンド・ピルチャー 朔北社刊)という小説の主人公

が昔恋人からもらった手紙の一文に出てくるそうです。悲恋に終わった恋の思い出を

胸に秘めた主人公が、自分たちに代わって知り合いの若い男女が相思相愛になるよう

早咲きのポリアンサスをその女性の部屋にそっと飾ってあげると、本当に願いが叶い、

二人の恋が成就するという話に登場します。

 ネットでしらべると、この小説(原題は「The Shell Seekers」)映画にもなっている

ようですね。見た方の感想がききたいものですが。

 

★「ケンさん」と「ケンちゃん」 

 本書の著者である熊井明子先生のお宅に伺うと瀟洒な応接室に素敵な花とともにあ

のベルリン映画祭やヴェネツィア映画祭の銀熊像や銀獅子像ががさりげなく置かれて

いたり、ジャン・コクトーシャガールのポスターや絵が飾られていました。

 明子先生はポプリ作家としても有名なエッセイストですが、世界的な映画監督熊井

啓夫人としても知られています。「凜と咲く」の打ち合わせでうかがった時、明子先

生がまだ外出先から戻っておられずお留守で、監督御本人が、お待たせしてすみませ

んねえ、これでも読みながらお待ちくださいと出されたのが、「週刊文春」でした。

私がいうのはおこがましのですがその気遣いがほほえましく、いい御夫婦だなあと心

から思いました。忘れられない思い出の一つです。

 

 監督が亡くなられた時はご自宅に伺いご焼香させていただいたのですが、私が座っ

たとたん、「ケンちゃんもそこで手を合わせていったのよ」といわれました。「けん

ちゃん」とは渡辺謙さんのことで高倉健さんは「健さん」、監督はそんなふうに呼び

分けられていたそうです。あの大きな体軀を小さくすぼめて手を合わす「謙ちゃん」

の姿がまざまざと浮かびました。「俊寛」の映画の企画があったそうで、渡辺謙さん

の「俊寛」観てみたかったなあ、ととても残念に思ったことを思い出します。 

 本ができるまで何度ご自宅にうかがったことか。時を忘れおしゃべりに夢中になっ

て気がついたら外は真っ暗に、ということもありました。

 ことばのはしばし、家のしつらいにお二人の凜とした生き方がうかがわれ、いつも

教えられることばかりでした。

 

 赤のバックに花模様をあしらった美しい千代紙のような艶やかな表紙はながめてい

るだけで幸な気分になれます。店頭に飾りたいからと書店の方から沢山注文を受けた

こともありました。

 こんな読者の声もよせられていています。

 

「読んでいるうちに何故か涙が……。それからすーっと気持ちが楽になった」(46歳教

師)「読み終わったら誰かにプレゼントしたくなりました。」(21歳学生)「本を開くだ

けでもとても癒されました」(35歳ピアニスト)

 

 

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草木原語の彩時記—凜と咲く  熊井明子/著 定価(本体1500円+税)

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